どうもこんにちは,Megです.
以下の論文のサーベイメモをまとめていきます.
フォーマットは「Chem-Station,”研究者目線からの論文読解を促す抄録フォーマット”,2017.」を参考にさせていただきました.
論文内容における解釈違いの可能性があることをご容赦ください…!
サーベイ論文
Kim, Na Young, Hsu, Joey, Talmasov, Daniel, Joutsa, Juho, Soussand, Louis, Wu, Ona, Rost, Natalia S., Morenas-Rodríguez, Estrella, Martí-Fàbregas, Joan, Pascual-Leone, Alvaro, Corlett, Philip R., Fox, Michael D. Lesions causing hallucinations localize to one common brain network. Molecular Psychiatry. 2021, vol. 26, no. 4, p. 1299–1309.
研究の概要
幻覚の原因となる脳の領域は解明されていない.
Lesion network mappingという手法を用いて,幻覚を引き起こす89の脳病変を研究した.
これらの幻覚の病変の場所は,小脳虫部・下小脳・右上即頭溝の機能的に接続された単一の脳ネットワークが同定された.
このネットワークの接続は感覚モダリティ(1)を決定し,幻覚の原因となる神経解剖学的回路への知見を与える.
問題設定
幻覚は,複数の異なる神経疾患及び精神疾患で発生し,既存の治療法では難治性になる場合がある(2).このように幻覚の神経科学的・臨床的重要性があるにもかかわらず,原因となる脳領域は不明のままである.加えて,幻覚に共通の神経解剖学的回路の有無や,この回路があった場合,感覚モダリティによって異なるかどうかも不明である.
また,機能的神経画像研究により,複数の異なる脳領域に亘幻覚の神経相関が特定されている(3).しかし,既知の神経画像所見が幻覚の原因・結果・偶発的な相関関係をどのように表しているかは未解決である.
先行研究により,幻聴と幻覚は限局性脳病変のあとに発生する可能性を示唆されているが,これらの神経解剖学的回路は未だわかっていない.
技術や手法のキモ
データ収集
PubMedで検索語(hallucinations OR hallucination OR hallucinosis) AND (lesion OR tumor OR tumour OR stroke OR infarct OR ischemic OR hemorrhage OR haemorrhage OR bleeding OR traumatic)(「(幻覚 OR 幻覚 OR 幻覚症) AND(病変 OR 腫瘍 OR 脳梗塞 OR 虚血 OR 出血 OR 外傷)」)という検索を実行した.
検索条件に当てはまった各論文の著者に連絡をとり,元データの共有を依頼した.
最終的に,著者らの先行研究(3)に含まれる28例と、オリジナルのCT/MRI画像に基づく11例を含む89例を対象とした(Figure S1)。
Lesion network mapping
Lesion network mapping(4)は,幻覚症状が複数の異なる場所の病変によって引き起こされる場合,共通の神経解剖学的回路を分離することに役立つ新技術である.
本研究では,Lesion network mappingを用いて,あらゆるタイプの幻覚を引き起こす病変の包括的な検証を行う.加えて,幻聴と幻視を引き起こす病変がどのような脳ネットワークにマッピングされるのかを実験する.
有効性の検証
共通の脳ネットワークへのマッピング
健常者の安静状態のfMRI画像を使用することで,89の病変部位それぞれ(Lesion on template brain)と他の脳部位との機能的接続を計算した.そしてこれらをオーバーラップすることで(Lesion network overlap),病変の位置全体で共通の接続を特定した(Fig 2A).
Fig 2Cからも,統合分析により,幻覚を引き起こす特異的な接続性を持つ領域が特定された.
共通の脳ネットワークと小脳・右上側頭溝の関係
単一の共通ネットワークは,小脳領域と正の接続(Fig. 3A),右上側頭溝(right superior temporal sulcus :右STS)と負の接続(Fig. 3B)が計算された.
これらの重なりは,Fig. 3Cの紫色の領域で示される.この紫の領域は,幻覚を引き起こす異種の病変の場所(黄色)を含む(Fig. 3D).
感覚モダリティに固有のネットワーク
Fig. 4は接続と幻覚の感覚モダリティの関連を示している.
Fig. 4Aの上図において緑の領域で示された,外側膝状核(lateral geniculate nucleus:LGN)は幻覚と関連性があることが観測できた.
同様に,Fig. 4Aの下図において緑の領域で示された,歯状核は幻聴と関連性があることが観測できた.
幻視を引き起こす皮質病変と皮質下病変の比較
Fig. 5において円で囲まれている部分は線条体視覚野であり,幻視を引き起こす病変ごとに正の相関・負の相関がある.
Fig. 5Dより,幻視を引き起こす皮質病変と皮質下病変の直接的な統計的比較は,線条体外視覚皮質への接続性に有意差があることを示す.
議論
本研究では,以下の3つの重要な発見があった.
- 幻覚を引き起こす病変は,感覚モダリティとは独立した,小脳と右STSへの接続による共通の脳ネットワークの一部である.
- LGNと歯状核への接続は,幻覚・幻聴に関与する感覚モダリティを決定する.
- 幻視を引き起こす病変は,線条体視覚野に接続されるが,接続の相関は病変の場所によって異なる.
しかし,幻覚ネットワーク内の他の領域が重要な役割を果たしてい可能性は除去できていない.
また,幻視に関連する病変は,線条体視覚野に異なる影響を与えるが,興奮性と抑制性の影響のバランスに関しては,さらなる研究が必要である.
次に読むべき論文
Lesion network mappingを使用して,意識昏睡について研究した論文.
Snider, Samuel B., Hsu, Joey, Darby, R. Ryan, Cooke, Danielle, Fischer, David, Cohen, Alexander L., Grafman, Jordan H., Fox, Michael D. Cortical lesions causing loss of consciousness are anticorrelated with the dorsal brainstem. Human Brain Mapping. 2020, vol. 41, no. 6, p. 1520–1531.
参考文献
(2) Clark, M. L., Waters, F., Vatskalis, T. M., Jablensky, A. On the Interconnectedness and Prognostic Value of Visual and Auditory Hallucinations in First-Episode Psychosis. European Psychiatry. 2017, vol. 41, no. 1, p. 122–128.
(3) Boes, Aaron D., Prasad, Sashank, Liu, Hesheng, Liu, Qi, Pascual-Leone, Alvaro, Caviness, Verne S., Fox, Michael D. Network localization of neurological symptoms from focal brain lesions. Brain. 2015, vol. 138, no. 10, p. 3061–3075.
(4) Fox, Michael D. Mapping Symptoms to Brain Networks with the Human Connectome. New England Journal of Medicine. 2018, vol. 379, no. 23, p. 2237–2245.
付録
感覚モダリティ
(1)2: いろいろな感覚 – 知覚・認知心理学. (参照 2022-11-11).